洋菓子の経験を活かして
飾りパンで世界へ
Baker
マーケティングディビジョン
畑仲 尉夫
クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2012
(飾りパン部門代表)総合優勝
マスター・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2014
飾りパン部門 第3位
子どもの頃から身近だった神戸屋パン
私は高校卒業後に神戸屋に入社しました。高校時代に、お寿司屋さんと卸売市場の青果店でアルバイトを経験したのですが、そこで食材や料理と世の中の関係性のようなことを、高校生ながらに感じまして。それで将来は、ホテルやレストラン、カフェ、食品メーカーなど食関係のものづくりができる場所で活躍してみたいという目標があったんです。
地元が大阪でしたから、「神戸屋パン」というのは普段の生活の中で本当に身近な存在でした。社会科見学で工場見学をさせてもらったり、工場の近くを通ればパンのいい匂いがする。だから神戸屋パンはよく知っていたのですが、神戸屋レストランも運営しているとは全然知らなくて(笑)。就職活動の時に高校の先生から、神戸屋パンはレストランも運営していると教えてもらって。それなら働いてみたいと、神戸屋の人事の方に話を聞きにいったのが入社のきっかけでした。ここで将来職人として技術を身につけ、人生のスキルアップを目指すぞと。
10年続けた洋菓子からパンへの転向
入社後は、神戸屋レストランやキッチンなど長く店舗勤務を中心に働いていました。でも、パン職人になるのはずっとあと。入社後10年くらいは洋菓子をメインに担当していました。そこから完全にベーカリーの方に軸足を置くようになったのは、職場の先輩の影響です。その方は後にクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2002(パンの世界大会)で総合優勝をするのですが、実際のトレーニングの様子や、その方のつくる芸術的な飾りパン作品に触れる機会が多くありました。雲の上の存在のようにも思えましたが、間近で見るのはすごく刺激的で、自分もパン職人として世界を目指したいと考えるようになったんです。
洋菓子からパンに転向してみると、それぞれに違った醍醐味があることもわかりました。洋菓子はとにかく計量が命です。ペーストやフィリングなど材料を組み合わせて組み上げていきます。一方のパンは、粉と水とイーストというシンプルな材料を、発酵でコントロールしていくもの。発酵で生地を育てていくというのがパンの面白いところです。
簡単に言えば、洋菓子は繊細さ、パンは大胆さ。しかもパンは、ミキシングの仕方や温度や熟成の仕方などで毎回違うものができますから、洋菓子以上に、毎日まったく同じものをつくるのが難しかったんです。もちろんマニュアルはありますが、ちょっと生き物のようでもあるところが魅力に思えて。やればやるほど、パンへの熱い思いや職人として技術を極めたいという目標が芽生えていきました。
洋菓子の技術を活かして
飾りパンで世界に挑む
クープ・デュ・モンドの日本代表を目指すようになったのは、2000年頃でした。その頃から、歴代の日本代表の方の作品を見ながら、個人的にトレーニングを始めていました。
クープ・デュ・モンドには、食事パンをつくるパン部門と、菓子パンをつくるヴィエノワズリー部門、そして飾りパンと3つの部門があります。そのなかでも飾りパンを選んだのは、職場の先輩が飾りパンをやっていたことはもちろんですが、自身の洋菓子の経験値を活かしたいという思いもありました。飴細工やチョコレート細工など、洋菓子のピースもたくさん見たりつくったりしてきましたから、それをパンで表現したいと。
そして2009年、目標にしていた日本代表になることができましたが、想像以上の重圧とプレッシャーに負けそうになりながら、本大会(2012年)までの2年半を過ごしました。その間、2011年には東日本大震災もあり、このままトレーニングを続けていけるのかという不安な時期もありましたね。それでも無事に本大会に出場し、総合優勝を果たすことができました。その後は、個人戦の世界大会マスター・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2014に出場しました。トレーニングを始めてから足かけ14年、この期間は本当に、濃密な時間でした。
憧れてもらえるパン職人に
世界大会に挑んだことで、やはり自分自身が大きく変わりました。圧倒的に視野も広がりましたしね。たとえば普段からアイデアを見つけるために、街を歩く時なんかにも、自ずとヒントを探すようになりました。建物のデザインやロゴ、いろいろなところにヒントがあります。それから、代表になってからは周りの目も変わりました。神戸屋の社員ではあるけれど、日本代表の畑仲でもある。だから一つひとつの行動をすごく意識するようになりましたね。私が先輩を見て憧れたように、今度は反対に私の姿を見て憧れてもらえるような存在にならねばと。
そしてもちろん、店舗でのパンづくりも変わっていきました。世界で戦ってきたパン職人たちと、会社の枠を超えてお話をするなかで、それを吸収し、現場の中に取り入れることもできるようになりました。
探究心の尽きない冷凍生地開発
私は現場の店舗で働いた期間がとても長かったですが、今は店舗を離れて冷凍生地の商品開発を担当しています。やっていることは、店舗の仕込みとほぼ同じなのですが。生地を仕込んで休ませて、分割して発酵・熟成させる。でも冷凍生地が違うのは、わざと発酵を止めて冷凍するという点です。そうして冷凍で出荷した生地を、店舗側で発酵させてパンを完成させます。スクラッチ(全行程を一貫して職人が行う)と比べて、おいしさを出すための条件は厳しいんです。そんななかでも、いろいろな製法を少しずつ工夫してスクラッチと変わらないくらいおいしくできた時の達成感は、とても大きなものがあります。
特に冷凍生地の場合は、通常のパンづくり以上に、自家製酵母の使い分けや粉ごとの特性の違い、酸化や還元の理解など、科学や理論に基づいた知識や判断が必要になります。素材や製法の深掘りは、これまで以上に私の仕事の大事なテーマになっています。
神戸屋に入社して、もうじき40年近くになります。長く働いてきて思うのは、神戸屋という会社は、いい意味で本当にまっすぐなところがあるんです。本当にいい材料を使って、手間暇かけて、店舗でスクラッチでパンをつくる。それをずっと変わらずにやりながら、安定した売上をつくっていけていることが、素晴らしいなと感じています。ただ、これから先、世の中全体で人手不足の問題とは向き合っていかなければなりません。だからこそ冷凍生地は今、求められているものではあります。そんななかでも、すべてを効率化するのではなく、一つひとつ手づくりを貫くこともやり続ける。それが神戸屋の魅力であり、お客様や取引先様との信頼関係の源泉ではないかと思っています。
マーケティングディビジョン
畑仲 尉夫
クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2012
(飾りパン部門代表)総合優勝
マスター・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2014
飾りパン部門 第3位
1988年神戸屋入社。関西店舗を中心に洋菓子部門を担当。2005年、関東店舗への異動とともにベーカリー部門も担当。2020年よりマーケティング商品開発部に異動し、ベーカリー・洋菓子開発を担当。2023年より冷凍生地の商品開発を担当。