どこまでも終わらない
おいしいパンへの探究心
Baker
執行役員/マーケティングディビジョン
長田 有起
クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2012
(パン部門代表) 優勝
マスター・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2014
パン部門 優勝
お客様の声が励みになって
パン作りにのめりこんだ
高校卒業後すぐに神戸屋に就職しました。当時、神戸屋のことはよく知りませんでしたし、パン職人になりたいという強い思いもありませんでした。こう言ってしまうとあまり夢がないですが、創業が1918年ですし、長く続いている会社なら安心だろう、というのが私の入社理由でした。でも、いざ店舗(神戸屋キッチン)に配属され、現場でパンづくりを始めてみると、その面白さにどんどんのめりこんでいきました。
パンづくりには、生地の仕込み、成形、焼成と大きく3つの工程があります。神戸屋の場合は製造量が多いですから、工程ごとの役割分担がはっきり決まっているんです。そのなかで入社当初の私は、焼成担当。最終製品としてパンを焼き上げる仕事でした。
最終工程ならではですが、窯から出てくる瞬間はワクワクしますし、おいしそうに焼けると自分でもすごく嬉しいんです。それに、神戸屋キッチンは窯がお客様の目の前にありますから、「このパン、おいしそう!」という声がダイレクトに聞こえてきます。
また、窯という売り場に一番近い場所だからこそ、お客様や販売員からパンに関して質問を受けることも多くありました。でも、当時の自分は焼いているだけでしたから、何も答えられず、それが悔しかったんですよね。そこで、パンをより深く知るために仕込み担当を志願しました。そうして勉強を重ねるうち、気づけばパンづくりの面白さにどっぷりとハマっていました。
一枚のポスターから世界を目指して
世界大会(クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー)のことを知ったのは、入社間もなくの頃。当時勤務していたお店に1999年大会のポスターが貼ってあるのを見て、こんな世界があるのかと興味を持ちました。さらに追い打ちをかけたのが、仲の良かった同期が、当時の日本代表選手が店長を務めていた店舗に配属されたことです。自分も世界を目指してみたいという気持ちが強くなり、「絶対に代表になる」と周りに宣言するようになりました。
とはいえ当時はまだ技術も何もありませんでしたから、まずはとにかくパンづくりに打ち込む日々。その後2002年、運良くその代表選手のいる店舗に異動することになったのですが、その頃は正直、やればやるほど代表という目標が遠く思えていました。だから師匠(=その代表選手)には、自分の気持ちを打ち明けたことがなかったのですが、ある時「日本代表の選考会に挑戦してみないか?」と背中を押してもらって。それが正式に世界を目指す決意をした瞬間でした。それは、私の職人人生の大きな転機でもありました。
世界大会への道のりと悲願の優勝
クープ・デュ・モンドは、パン部門、ヴィエノワズリー部門、飾りパン部門という3部門があり、各部門に一人ずつ代表が選ばれ、3人1組のチームで競います。私はそのなかで、師匠の薦めもありパン部門の代表を目指していました。
神戸屋はそれまでも、飾りパン部門での代表輩出の実績があり、師匠も飾りパン部門の代表選手でした。一方、パン部門で代表になった人は一人もおらず、正直不安が募りました。パン部門に強い会社がほかにありましたから、パン部門で出場するのでは、私は代表になれないんじゃないかって。それでも毎日勤務後の時間を使って、がむしゃらに練習を続けました。
初めて予選に挑戦したのは、2008年大会でした。自分なりに一生懸命やったのですが、二次予選で落選。その後、最終選考を見に行った時に「あと少しで自分もあの場に立てたのか……」と思うとすごく悔しくて。その気持ちをバネに、次の2012年大会へ向けて再チャレンジの気概が高まりました。
そして2度目のチャレンジでようやく日本代表に選ばれ、結果的に世界大会での優勝も果たすことができました。さらに、2014年には個人戦(マスター・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2014)でも世界一を獲得しました。
当時は、世界大会が4年に1度。日本代表の選考は、本大会の2年前に行われますから、本当に長い期間、代表活動と通常業務を並行で行う必要がありました。それは、会社のバックアップなしには実現できませんでした。世界に挑戦できる環境を与えてくれた会社には、とても感謝しています。
世界大会での経験を
後輩たちに還元したい
世界大会に挑戦しながら、店舗の現場で職人として腕を磨いた18年間。その後、2016年には商品開発のセクションに異動し、自分の技術を後輩に伝える指導や商品づくりに専念しました。また、世界大会にも継続的に関わっており、2020年大会では監督を務め、その後の大会でも選手団に同行して選手の活躍を見守っています。さらに、代表選手の技術指導はもちろん、現場の職人への直接指導や研修なども行っています。代表経験者だからこそできることを、後輩たちに還元したいんです。
神戸屋には元日本代表選手も多く在籍しています。会社としても、職人としての向上心や世界に挑戦する機会を大切にしています。また、大きな企業だからこそ、日頃からパンをつくる量が圧倒的に多いことも大きなメリットだと思います。上を目指すのにあたって、量をこなすというのは間違いなく重要になります。世界に興味がある方にとって、神戸屋という場所はとても良い環境だと思っています。
おいしいパンの追求に終わりはない
私はもうじきパン職人歴30年になります。現在は、執行役員としてマーケティング全体を統括する立場となり、現場から離れてしまったことで、つくる機会は減ってしまいました。でも、自分のなかにはずっとつくり続けていたいという気持ちが、ふつふつとあります。
パンの歴史は太古まで遡りますが、パン酵母が発見されてからは約170年程度。科学的にまだわかっていないことも多いと思っていますし、新しい技術もこれからどんどん生まれてくると思います。そのたびに自分の理想の基準は上がっていくでしょうし、世界にはまだ知らないパンもたくさんあり、本当に終わりがないんです。
神戸屋は、日本人がおいしいと思えるパンを目指しています。パンづくりには伝統が確立してきたセオリーがありますが、それをうまく破っていく遊び心が、神戸屋にはあると思います。新しい発想でチャレンジし、今までにない商品を生み出す。職人たちのなかに息づくそんな精神が、神戸屋のパンの独創性につながっていると思います。
執行役員/マーケティングディビジョン
長田 有起
クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2012
(パン部門代表) 優勝
マスター・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2014
パン部門 優勝
クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジュリー2020
(監督) 準優勝
1998年神戸屋入社。職人として店舗で18年研鑽を積み、2012年世界大会でチームを優勝に導く。2014年個人戦優勝、2020年には監督として準優勝に貢献。商品開発やマーケティングのマネージャーを経て、現在は執行役員として、現場の技術と経営視点の両輪で同社を牽引する。